読めば和菓子が好きになる『和菓子のアン』
表紙に惹かれた一冊
私は小説を買うとき、だいたいは裏に書かれているあらすじを読んで、買うかどうかを決める。しかし、まれに表紙に惹かれて、衝動買いのごとく買ってしまうこともある。
『和菓子のアン』も、そんな風に表紙に惹かれて購入した作品の一つである。
甘いもの、特にあんこが好きな私にとって、美味しそうな饅頭が描かれた表紙は、「この本を買ってくれ」と言っているようなものだった。
と、出会いは衝動的なものであったが、実際に読んでみると、とても心温まる面白い作品だった。
心温まるストーリーと魅力的なキャラクター
『和菓子のアン』の舞台は、デパ地下にある和菓子屋「みつ屋」。
あらすじにはお仕事ミステリーと書かれている。しかし、ミステリーといっても、殺人事件が起きるようなハードなミステリーではない。
和菓子を求めて「みつ屋」にやってくるお客さん。
皆、なにかしらの思いを抱えてやってくる。
その思いを、謎を解くように解き明かし、汲み取る。
そして、和菓子屋としての解決策を提案する。
そんな人と人との繋がりで心が温まる、とてもライトなミステリーだ。
登場人物は一癖も二癖もある人たちばかりだが、それゆえに読んでいて飽きがこない。
和菓子が食べたくなるミステリー
見どころは、ミステリー要素やキャラクターだけではない。
和菓子屋が舞台なので、ストーリー中には当然、和菓子が登場する。その和菓子1つ1つに隠されたストーリーも紹介されるのだ。
和菓子に対して詳しくない人は、なんとなく見た目がきれいとか、面白い形をしているとか、そんな感想しか抱かないのではないだろうか。
なにしろ私自身も、その一人だったから。
ただ、和菓子に込められたストーリーを知ることで、なぜこの形なのか、なぜこの素材がつかわれているのか、ということも知ることができる。
そして読み終わったとき、つい和菓子屋に足を運びたくなってしまう。
ミステリーとしても面白く、和菓子を食べたくなってしまう。
そんな一風変わった作品だった。