温かくて少し悲しい物語『コーヒーが冷めないうちに』
もしも過去に戻れるのなら
もし過去に戻れたら、いつに戻るだろう。
そして、そこでなにをするだろう。
誰もが一度は、そんなことを考えたことがあるのではないだろうか。
『コーヒーが冷めないうちに』は、過去に戻ることができると噂の喫茶店「フニクリフニクラ」を舞台にした、心温まる物語である。
未来を変えられなくても過去に戻る理由
この「フニクリフニクラ」で過去に戻れるという話は、都市伝説のように扱われている。
しかし、それでも過去に戻りたいとやってくる客たち。
皆無事に過去に戻ることに成功し、その人が過去の世界でなにをしたかったのかが描かれていく。
ただ、過去に戻るにはいくつかのルールがある。
その中でも大きなルールが、過去の世界では席から離れられないこと。
そして、過去に戻っても未来は変えられないこと。
過去に戻りたいと考えるとき、そのほとんどは、未来である今を変えたいと思っているから。私はそんなふうに考えていた。
しかし『コーヒーが冷めないうちに』では、未来を変えられないとわかっていても、過去に戻ることを選択した人たちのストーリーが描かれていく。
人との別れは突然訪れるもの。あのとき伝えておきたかったこと。その言葉を伝えに、人は過去に戻るのである。
物悲しい気持ちの残る作品
『コーヒーが冷めないうちに』を読み終わり、私自身のことも考えずにはいられなかった。
過去を思い返すと、一人の男の子の姿が浮かんできた。
小学校は違うけれど、仲良くなった男の子。
小学校が違うゆえに、別れ際が思い出せないほどに、いつのまにやら離れ離れになっていた。
もし別れ際、なにか言葉を交わせていたら、今でも友達でいれたのかな。
そんな少し物悲しい気持ちが残る作品だった。