優しい嘘の物語
人は誰しも嘘をつく。
生まれてから一度も嘘をついたことはない、という人はいないのではないだろうか。
「嘘をつく」というのは、悪いことのように感じるかもしれない。
しかし、嘘にも2種類ある。
人を陥れるための嘘と、人への優しさから生まれる嘘。
前者は当然悪いことだが、後者は決して責めることはできないのではないものだと思う。
『この嘘がばれないうちに』は、そんな優しい嘘が織りなす物語。
その人を安心させるために
物語の舞台は、前作『コーヒーが冷めないうちに』と同じ喫茶店「フニクリフニクラ」。
この喫茶店には、過去に戻ったり、未来に行ったりと、時間を移動できる都市伝説のような噂がある。これが都市伝説などではなく、事実であることは、前作で明らかになった。
それを知ってか知らずか、時間を移動するためにやってくる客たち。
もちろん時間を移動した際のルールは前作から変わらない。
席から立つこともできなければ、現実を変えることもできない。
それでも客たちは、時間を移動することを選ぶ。
そして、その先で待つ相手に嘘をつく。安心させるために。
それぞれの客が、どのような理由で時間を移動し、なぜ嘘をつくのかが、短編のように綴られていく。
心に溢れる優しい気持ち
年齢のせいだろうか。
最近、親子が描かれたストーリーにめっぽう弱くなった気がするのだ。
きっと、もう少し若いときに読んでいたとしたら、もっと違う感じ方をしたのではないかと思うし、もっと年齢を重ねてから読んだら、また違う感想を抱くかもしれない。
それはつまり、読む人、その人の年齢によって、心に響くストーリーは異なるということではないだろうか。
ただ、誰が読んでも変わらないこと。
それは読み終った後、少し優しい気持ちが心を温めてくれることだろう。