父との思い出
私には父がいない。
今回の話を書くにあたって、やはり事実は明かしておいた方がいいと思い、こう書いたのだが、思いのほか重たい書き出しになってしまい、私自身困惑している。
しかし、重たい話など一つもない。ただ両親が離婚したというだけのことだ。今日日、両親が離婚する家庭なんて珍しくもなんともない。
父が居なくなってすぐは、片親であることに引け目を感じたり、父に対して少しの恨みを感じたりした。
けれども、今はそんなこともなくなった。
父のことは、好きでもないし、嫌いでもない。会いたくないとも、会いたいとも思わない。
多分、仮に会ったとしても、感動の再会みたいなことにはならない。
そんなドライな感じではあるが、幼い頃は少なからず父親でいてくれたわけで、いくつかの思い出もある。
今回書く話は、そんな思い出の一つ。
『ONE PIECE』にはまった小学生時代
私は小学校四年生のときに、 『ONE PIECE』を読み始めた。
それ以前からマンガは連載されていたし、アニメも放送されていたが、四年生になったあたりでクラスの男子のほとんど、加えて女子も数人が『ONE PIECE』を読んでいるという状態になっていた。
当時から天邪鬼だったのか、私はどうにも見る気になれなかった。
ここで母は心配するのである。友達との会話についていけるのだろうか、それがきっかけでいじめられないか、と。
そしてある日、母から ONE PIECE の単行本1巻から4巻を授けられることになる。
結果だけを書くと、母の思惑通り、私はまんまと『ONE PIECE』にどハマりした。
しかし、授けられたのは4巻までで、5巻以降は自分のお小遣いで買わなければならなかった。
その当時、『ONE PIECE』は19巻が発売された頃。ストーリーでいうと、アラバスタ編の真っ只中で、クラスでの会話も、そのあたりのストーリーについての話題ばかりだった。
私は5巻以降のストーリーが気になり、もやもやとした毎日を送ることとなった。
父が私に買い与えたもの
書店に行っては、『ONE PIECE』が並ぶ棚を眺め、帰宅したら1巻から4巻を読み返す。そんな日々だった。
ここで満を持して父の登場である。
ある日、外出先から帰宅した父が「『ONE PIECE』買ってきたよ」と、書店の紙袋を手渡してきた。
私は喜んだ。なにせ、読みたくても読めなかった5巻だ。
私はさっそく紙袋の封を開けて『ONE PIECE』を取り出そうとした。
のだが、ある違和感を覚えた。
いや、そんなはずは。
もう一度、紙袋を覗き込む。
明らかに、袋に入っているその本は、黄緑色をしているのだ。
私は知っていた。何度も書店で見てきたのだから。
『ONE PIECE』の5巻の表紙は白なのだ。
私はおそるおそる、紙袋から本を取り出した。
出てきたのは、『ONE PIECE』の19巻だった。
これについて、父を責めるつもりはない。だって、父は「『ONE PIECE』を買ってきた」と言っただけで、一言も「『ONE PIECE』の5巻を買ってきた」とは言っていないのだから。
なぜ4巻までしか持っていない私に、19巻を買い与えたのか。
いまだに疑問である。