苦手だった音楽
中学生のときの定期テスト。
国語や数学などの五科目だけでなく、音楽や家庭科などのテストもあった。
特に音楽のテストには良い思い出がない。
音楽用語の意味を答えろ。
作詞者と作曲者を答えろ。
楽譜を完成させろ。
要は暗記すればいいだけの話だが、当時から音楽が苦手だったから、その苦手意識のせいもあって、なかなか苦労した。
筆記のテストだけでなく、実技のテストもあった。
実技のテストでは、一人ずつクラスメイトの前で唄わされることになる。
唄うことも苦手な私は、ただただ苦痛だったし、当然テストの結果もよくなかった。
歩くような速さで
そんな私でも、『アンダンテ』という音楽用語だけは覚えていた。
理由は単純で、当時から好きで聞いていた矢井田瞳さんの曲に『アンダンテ』という曲があったから。
だから、テストでも『アンダンテ』だけは、自信を持って答えを書いていた。
それだけでなく『アンダンテ』は、私の好きな言葉でもある。
意味は「歩くような速さで」。
焦っても良いことはない。
そう考えている私の心に、とても引っかかる言葉でもあった。
人生を『アンダンテ』に過ごしてみてもいいのかも
社会人になって、東京へ出張する機会が何度かあった。
駅前のビジネスホテルに宿泊した。
窓からは、駅前を行き交う人々や、ネオンできらめく看板なんかが目に入る。
そんなビジネスホテルで迎えた朝。
なんとなくホテルの窓から外を眺めてみると、7時前だというのに、多くの人が歩いていた。
スーツを着たサラリーマン。
制服姿の高校生。
私服の人は大学生だろうか。
それはそれは、本当にたくさん。
そうやって朝早くから、足早に行き交う人々を見ていると、気が滅入ってしまった。
いろんなことを急いでこなさなければならない世の中かもしれないけれど、たまには人生を『アンダンテ』に過ごしてみてもいいのかもしれない。