就職活動の最中に訪れた悲惨な日
今でこそ多少は慣れてきたが、私は昔から人と話すことが苦手だった。
就職活動も面接が最悪で、なかなか内定はもらえず、毎日のように採用試験を受けに行く夏を過ごした。
いや、面接がなかなか受からなかったのは、何も人と話すことが苦手だっただけではないような気がする。
固い空気の中では、話づらくなってしまう。なんとか面接官のうけを狙って、空気を和ませたい。そんな気持ちがいつしか違う方向に向かい始め、最終的に、うければ勝ちみたいな、わけのわからないモチベーションで面接に望んでいたのも敗因の一つだろう。
まあ、それはそうとして、そんな採用試験ばかりを受ける地獄のような夏を過ごしていたのだが、その中でもさらに悲惨な日があった。
田舎の駅舎は木造である
私は福岡に住んでいて、就職先も福岡県内で探していた。
しかし、あまりに内定が出なかったため、山口まで足を伸ばしたことがあった。
高校まで徒歩で行けるところに通い、大学も電車一本で行けるところだった私は、初めて電車を数回乗り換えての、山口への遠征に向かうことになった。
しかも、下関とかならなんとかなるが、山口の中でも北の方の、なんとも知れない土地が目的地である。
私は入念に準備をした。
電車の時間、乗り換える駅、必要な運賃。
すべてを手帳にメモして、当日を迎えた。
駅でICカードに必要な運賃をチャージして、電車に乗り込んだ。
いざ山口への旅の始まりである。
この日は面接。緊張もするが、緊張していても良い結果は得られない。
できるだけリラックスしようと、夏の小旅行気分で車窓から景色を眺めた。
空に浮かぶ大きな入道雲、広大な緑が広がる畑。
私の地元では見られない風景が広がっていた。
電車に揺られて数時間が経ったころ、私の心にかすかな不安がよぎった。
とはいえ、私の思い過ごしかもしれない。
とりあえず、このことは考えないことにした。
しかし電車が進むにつれて、その不安は大きくなっていった。
私の不安要素は、駅舎が木造だったことである。
何のことやらわからないかもしれないが、結局私の不安は的中することになった。
当たり前が通用しない絶望
ある駅で、地元の学生たちが駅に入ってくる姿が見えたのだが、改札を入ってくるときに見慣れない行動をしていた。
切符を箱に入れているのである。
そう、自動改札ではないのだ。
私は急いで手帳と財布を取り出した。そしてメモした片道の運賃と、財布の中身を見比べた。
なんとか片道分の現金は財布に入っていたが、ICカードが使えるものだと思っていたため、他の現金はすべてICカードにチャージしてしまっていた。
改札が自動改札でない以上、ICカードも使えない。
今から引き返したところで、往復の運賃は必要になるし、そもそも面接をすっぽかすわけにもいかない。
一か八か、目的地の駅まで行くことにした。山口の地に置き去りになるのなら、それはそれだ。
駅に着いた私は、ICカードで入場してしまったことを伝え、片道の運賃を支払った。
そして、帰りの運賃分の現金がないことも伝えた。
駅員さんは若干困っていたが、なんとか対処方法を考えてくれた。
少し気持ちが軽くなった私は、なんとか面接を終え、駅にった。そして、教えてもらった対処方法でなんとか帰ることができた。
この対処方法であるが、本来はやってはいけない方法らしいので、ここでは詳しく書かないでおく。
駅員さんのご厚意に感謝である。
もし就職活動などで、電車で遠く離れた地へ向かうことがあれば、これだけは覚えておいて欲しい。
線路は繋がっていても、ICカードは使えない可能性がある、ということを。
こんな思いをして受けた面接は、見事に不採用に終わり、この苦い経験という名の話のネタだけが私の中に残った。